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願いを叶える少年
「あなたの願いを叶えます(要相談)」
ある小屋の前に、こんな立て看板が出ていた。
いかにも胡散臭い、そう思いながら男は入口をくぐる。

「おい、お前が願いを叶えてくれるのか。」
「ようこそ。ご相談に乗りますよ。」
小屋の主人は小柄な少年だった。
少年は、したり顔で微笑む。

こんな子供に俺の願いなんて叶えられまい、
男はからかうように言った。
「おい。俺はたくさんの美女に囲まれて暮らしたい。
とびっきりの美女と
葡萄酒を酌み交わしながら、
何不自由ない暮らしをな。」

少年は呆れたように笑う。
「ははっ。それは無理だ。」
あまりの潔さに、男は面喰らう。
「おい、願いを叶えてくれるんじゃないのか?」
「ごめんなさい。
でも言ったはずだ、相談にのると。」
「どういうことだ?」
「おじさん、こんな話を聞いて。」

少年はうっとりと話し始めた。

「昔ね、隣に住んでたおじいさんが、僕に突然こんなこと言ったんだ。
『私をタイタンにつれて行ってほしい』と。
聞けば、彼は若くして兄弟を亡くしたらしい。
その兄弟が、亡くなる時に彼にこう言ったんだって。
『タイタンで待つ』って。
おじいさんは、その言葉を忘れられずに生きてきたらしい。

だけど、だんだん身体が弱ってきて、
自分の死期を悟るようになって、
ふと、タイタンにはどうやったら行けるのだろう?
って考えるようになったって。

それでこんな小さな僕に言うんだ。
『願いを叶えてくれるか?私をタイタンへつれて行ってほしい』
当然僕にはそんなこと出来ないし、
彼の兄弟が本当にタイタンにいるのかさえわからない。
もちろん彼も、そんなことわかってた。
だけど言うんだ。
『お願いだ。お前に叶えられるんだ。』って。
僕には彼の意図がわかったよ。
だから僕は、彼が亡くなったら、必ずタイタンへつれて行くって約束したんだ。
…今頃は、タイタンで兄弟と暮らしてるだろうね。」


男はにやりと笑う。
「…そうか。そういうことか。」

少年はあらためて聞く。
「さあ。おじさんの願いは?」

男は優しく言った。
「そうだな。
地球の裏側にいるまだ見ぬ恋人に、
愛してると伝えてくれ。」

少年はうれしそうに笑う。
「かしこまりました。」
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【2009/03/14 00:25 】 | 創作 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
昼を謳う詩人
「ふぅむ…」
女性編集長は、一通りの詩を読み終えると、
目の前の詩人を、上目使いで見た。
詩人はただじっと彼女の評価を待つ。

「…こんな時代だから希望を描こうとする。
最近多いのよ。
魂胆が見え透いているわ。」
吐き捨てように言って、彼女はその詩の束を机に放る。

「眠ってしまうから夜の闇は見えない。
そういうことかしら。
物事の本質から目を背けて、
明るい昼だけを謳おうとするなんて、
なんだか滑稽だわ。
ユートピアばかり描いていても、
詩人にはなれないわ。」

詩人は、首を傾げる。
「目を背けていると?
俺には世界は、全くその通りに映るのだが。」

女性編集長は嘆息する。
詩人は続ける。
「この世の本質が闇とは、勝手な言い分だ。」

「あなた。世相を明るく塗り変えようという意図すらなかったと?」

「世界を暗いと決め付けてるのは人の心だ。
決め付けの世界で他人の心を測るとは、ありがちなこと。」

女性編集長は、もう一度その詩篇に目をやる。
先程白々しく映った言葉が厚みを帯びる。

「あなたの詩が、もっと読みたいわ。」


結局詩人の詩は採用されなかった。

代わりに編集長は、魅力的なこの詩人との出会いを編集後記に記した。
彼に少し嫉妬してしまったわ、と。
【2009/03/13 00:59 】 | 創作 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
哲の人
山あいの小さな村。
哲の人と呼ばれる男がいた。
誰かが困っていると、彼は哲学で道を示した。

「大好きな人がいて苦しいんです」
若い女が哲の人を訪ねてこう言った
「とっても好きなのに、どうすることも出来ないんです」

哲の人は、詳しくは聞かない。
いつだってそうだった。

哲の人は、女性に語りかけた。
「庭の桜が、花をつけ始めました。
あの殺風景な庭に、彩りが添えられました。
すぐに満開になり、庭が華やぎましょう。
そうして、いずれ桜吹雪が舞うでしょう」



--命短し、恋せよ乙女

女性の心に、そんな言葉が浮かぶ。

恋している今を楽しもう。
諦めずに想いを伝えよう。
散る瞬間、想いは一番鮮やかに輝くはずだわ。

「ありがとう。がんばるわ。」
女性はそう告げると、哲の人の家を去った。


哲の人は清閑な顔付きをしていた。
目はいつもはるばると彼方へ向けられていた。


ぼけているだけじゃないかしら?
そう言う人もいた。
そうなのかもしれなかった。


だけど誰もが知っていた。
答えはいつも自分の中にあることを。


哲の人も、知っていた。
【2009/03/12 02:54 】 | 創作 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
場数を踏んだ言葉
彼は一人の男をじっと見つめる。
思いつめた表情で屋上に佇む男。
彼には、見慣れた光景だった。

「…やれやれ」
いつもの如く怠惰に腰を上げ、
彼は男に近づく。

男は彼の気配を感じる余地もなく、
ひたすら下を見つめている。

「おいっ」
彼は男の肩に手をやると、乱暴に引き寄せる。






……「死ぬ気になれば、なんだって出来るゼ」
言葉を発したのは男の方だった。

男は屋上を立ち去る。

彼はぽつんと屋上に取り残された。



…彼は場数を踏んだ言葉。
追いつめられた心に、度々登場する。

決まり文句で、また一人生き延びた。
【2009/03/11 03:39 】 | 創作 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
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